加給年金は「夫婦の年齢差」で受給期間が変わる

加給年金は、厚生年金に20年以上加入した方が65歳になったとき、生計を維持している年下の配偶者や子がいる場合に支給される「年金版の家族手当」です。しかし、この加給年金は「いつまでもらえる」わけではありません。特に年下配偶者がいる場合、その配偶者が65歳になった時点で支給が打ち切られるのが原則です。

この「配偶者が65歳になった時」という条件が非常に重要です。例えば、夫が65歳で年金の受給を開始し、その時点で妻が60歳だったとします。この場合、夫は妻が65歳になるまでの5年間、加給年金を受け取ることができます。もし妻が64歳であれば1年間、妻が65歳以上であれば原則として加給年金は支給されません。

つまり、夫婦の年齢差が大きいほど、加給年金を受け取れる期間は長くなるということです。この仕組みを理解していないと、漠然と「もらえるもの」と考えてしまい、いざという時に「あれ?もうもらえないの?」と困惑するケースが少なくありません。

加給年金の支給条件と金額

加給年金を受け取るための主な条件は以下の通りです。

これらの条件を満たすことで、加給年金が支給されます。2024年度の加給年金額は、配偶者に対して年間397,500円(特別加算額を含む)です。これは月額に換算すると約33,000円にもなり、家計にとって非常に大きな支えとなります。この金額が、配偶者が65歳になるまでの期間、年金に上乗せされて支給されるわけです。

配偶者が65歳未満でも加給年金が支給停止になるケース

ただし、配偶者が65歳未満であっても、以下のようなケースでは加給年金が支給停止になることがあります。

この点は特に注意が必要です。共働きで配偶者も厚生年金に長く加入していた場合、配偶者が65歳になる前に自身の老齢厚生年金を受給し始めると、加給年金は打ち切られます。年金事務所では、個別の状況を全て把握しているわけではないため、ご自身で確認し、計画を立てることが重要です。

加給年金が打ち切られた後の「振替加算」とは?

配偶者が65歳になり、加給年金が打ち切られた後、それで終わりではありません。多くの場合、今度は「振替加算」という制度に切り替わります。これは、加給年金を受け取っていた配偶者自身が65歳になり、自身の老齢基礎年金を受け取る際に、その年金に上乗せされる形で支給されるものです。

振替加算は、配偶者が国民年金に任意加入できた期間(昭和36年4月1日〜昭和61年3月31日)に、厚生年金期間が20年未満である場合に支給されます。つまり、専業主婦(主夫)期間が長く、自身の老齢厚生年金が少ない配偶者を救済するための制度と言えます。

振替加算の金額と注意点

振替加算の金額は、配偶者の生年月日によって異なります。例えば、昭和29年4月2日〜昭和30年4月1日生まれの配偶者の場合、年額200,900円(2024年度)が自身の老齢基礎年金に上乗せされます。しかし、この金額は加給年金(約39.7万円)よりも大幅に少ないのが実情です。

また、振替加算は配偶者の厚生年金加入期間が20年以上ある場合は支給されません。つまり、加給年金を受け取っていた配偶者が、自身の老齢厚生年金(20年以上加入)を受給し始めると、加給年金は打ち切られ、振替加算も支給されないことになります。

この「加給年金 → 振替加算」の切り替わり、あるいは「加給年金のみで振替加算なし」というパターンを正確に理解しておくことが、年金受給計画を立てる上で非常に重要です。見落とすと、年数十万円単位で受け取れる年金額が変わってくる可能性があります。

年金事務所では教えてくれない「見落としがちな落とし穴」

年金事務所の窓口では、個別の質問には答えてくれますが、夫婦全体の年金受給計画や、加給年金・振替加算の複雑な組み合わせによる「最適な選択」までは踏み込んで教えてくれないのが実情です。なぜなら、彼らはあくまで制度の説明をする立場であり、個人の資産形成やライフプランニングに介入することはできないからです。

1. 夫婦の年金受給開始時期の調整

加給年金は、原則として受給者本人が65歳になった時点で支給開始されます。しかし、年金は繰り下げ受給が可能です。例えば、夫が65歳で年金受給を開始し、妻が60歳で加給年金を受け取る期間があったとします。もし夫が年金を70歳まで繰り下げた場合、その間の加給年金はどうなるのでしょうか?

加給年金は、本体の老齢厚生年金とは独立して、受給資格を満たした時点(原則65歳)から支給されます。したがって、夫が年金を繰り下げたとしても、妻が65歳になるまでは加給年金は支給され続けるのが原則です。ただし、繰り下げ受給の期間と加給年金の関係は複雑なため、個別のケースで年金事務所への確認が必須です。この点を見誤ると、受け取れるはずの加給年金を期間中に取りこぼすリスクがあります。

2. 配偶者の「特別支給の老齢厚生年金」と加給年金

配偶者が60歳から65歳までの間に「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる場合、その期間中は加給年金が支給停止となります。この制度は生年月日によって対象者が限られますが、もし配偶者が対象であれば、加給年金が一時的にストップすることを知っておく必要があります。

3. 共働き夫婦の落とし穴

夫婦ともに厚生年金に長く加入していた場合、加給年金は「夫婦のどちらか一方」にしか支給されません。一般的には、年金額が多い方、または先に65歳になる方が受給者となることが多いですが、配偶者自身も厚生年金20年以上の受給権を得ると、加給年金は打ち切られます。

例えば、夫が先に65歳になり加給年金を受け取っていたが、妻が62歳で自身の老齢厚生年金(20年以上加入)の受給権を得た場合、その時点で夫の加給年金は打ち切られます。夫婦で全体の年金額を最大化するためには、どのタイミングで誰がどの年金を受け取るのが最適かを事前にシミュレーションすることが不可欠です。

まとめ:加給年金は「戦略的に」活用すべき

加給年金は、年下配偶者がいる60代にとって非常に心強い制度です。しかし、「いつまでもらえるか」「打ち切り条件は何か」「振替加算への切り替わりはどうか」といった点を正確に理解し、ご自身のライフプランに合わせて戦略的に活用しないと、数十万円単位で損をしてしまう可能性があります。

年金制度は複雑であり、個別の事情によって最適な選択は異なります。銀行や証券会社の窓口では、このような年金制度の最適化について踏み込んだアドバイスは期待できません。彼らの収益構造は、金融商品の販売手数料に依存しているため、年金制度の解説は専門外だからです。

もし、「自分のケースだと、加給年金や振替加算をどう活用したら最も有利になるのか?」「年金と資産運用を組み合わせた、具体的な老後資金計画を知りたい」と感じた方は、ぜひ一度、中立的な立場からの専門家にご相談ください。

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